映画感想ブログ シアターじぶんち

映画をメインに映像作品や音楽の感想を書くブログです。

『夢(1990)』感想 こんな夢を見た人の作った映画を見た。

夢

 

ご存知、日本を代表する映画監督・黒澤明の晩年の作品。

8つのエピソードからなるオムニバス。

 

日本での資金集めが難航した事から、海外に掛け合い、スティーブン・スピルバーグの協力を得て完成した作品。

「タクシードライバー」でお馴染みのマーティン・スコセッシ監督が出演していたりもして、海外の黒澤チルドレンの愛が熱い。

名前の表記が「スチーブン スピルバーグ」「マーチン スコセッシ」なのがまた良いw

 

演出補佐には「ゴジラ(1954年)」の監督にして、盟友・本多猪四郎の名前も。

彼らの関係は、NHKで放送されたドキュメンタリー「イノさんのトランク~黒澤明と本田猪四郎 知られざる絆~」に詳しく、最高に感動するので、再放送などがありましたら是非見ていただきたい。

 

 

感想

「こんな夢を見た」の一文で区切られる、8つのエピソードからなるオムニバス。

 

「こんな夢を見た」は夏目漱石の「夢十夜」からの引用で、遺作となった「まあだだよ」は漱石の弟子・内田百閒の話。

シェイクスピアやドストエフスキー、ゴーリキー等を下敷きに映画を作って来た黒澤明が、晩年、日本の作家の作品を作っているのが興味深い。

この作品はゴッホの夢1篇を除き、とても日本的である。

遺作ではないけれど、どこか遺書のような気持ちもする作品。

海外に強い憧れを抱いてきた人間が、死を目前に自分の故郷を思う様な…。

 

それぞれのエピソードに繋がりが無い(と、思われる)ので、好きなエピソードを記す。

第1話 日照り雨

まず目につくのが表札に書かれた「黒澤」の名。

これは俺の話だぞ!と宣言するかのようだ。

そして主人公の少年同様、見ている側も異様なイメージの世界に連れ込まれる。

ストーリーなど無いのに、不思議と目が離せない。映像の魔力。

花畑と虹の怪しげな美しさ。1枚の絵画の様に決まっている。

 

第2話 桃畑

あまり出てこないけど、少女たちの色とりどりの着物が華やかで良い。

晩年、自然に興味が行っているのか、あるいは何かのメタファーか。

 

リアル雛段。何だかわからんが、このイメージの奔流を浴びてると高揚してくるな!

映像にただただ打ちのめされる。

 

家から出る前にすでに重要なものにライトが当たっていたり、

巨匠は夢の中でも演出をしているのか…。

 

第4話 トンネル

戦争の悪夢。

黒澤明本人は戦地に行ってはいないので、戦争に行かず助かった負い目か。

間接的に彼らを殺してしまった意識というか…。

 

軍靴の音がどこか、列車の音にも聞こえる。

赤いライトの使い方も良い。

 

しかしこの男、後悔の悪夢ばかり見ている。

自分はこんな悪夢は一生見たくないものだ。

 

第5話 鴉

ゴッホの絵の中に入りてーという夢を叶えた作品。

美術が本当に凄い。正に夢の世界。

川の色や空の色、緑に至るまで完全にコントロールされてる感じ。

ロケーションも美しい。

 

画が上手くいかないなら、現実の方を変えてしまう程のゴッホの業。

黒澤明が描きたかったのは、自分にも通じるその芸術家の業ではないだろうか。

 

絵画と映像の化学反応。

美しいものを捉えたい。

溢れ出る業の表出の様な映像に圧倒される。

 

第8話 水車のある村

本当に自然が奇麗。

揺らぐ水草や花。川の流れる音や鳥のさえずり。

しかし、この美しい自然は徹底してコントロールして作り出された自然のはずで、

自然を崇拝しながらも支配しようともしている、そのアンビバレントな感覚もまた面白い。

表裏一体の生と死。葬式と祭り。不自然なまでに美しい自然。

 

 

笠智衆のセリフがとても良い。

飾り気の無い話し方が最高。笑い方も。

 

自殺未遂までした黒澤明が語る「生きる事について」は心を打つ。

 

東京物語でも結構お爺ちゃん感があったけど、

笠智衆は一体何年お爺ちゃんだったんだろうか…。

 

 

まとめ

正直理解できない部分も多かったり、退屈しちゃう部分もあるけれど、

いつか全て分かるんじゃないかと思いながら、定期的に見返す作品だろう。

 

見ていない方は是非。

黒澤入門としては辛いので、主要作を見た後で見るのがオススメです。

 

 

黒澤明監督作品 AKIRA KUROSAWA THE MASTERWORKS Blu-ray CollectionI(7枚組)

黒澤明監督作品 AKIRA KUROSAWA THE MASTERWORKS Blu-ray CollectionI(7枚組)